炎症性腸疾患

炎症性腸疾患とは
炎症性腸疾患とは、腸に慢性的な炎症が起こる病気の総称で、主に「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」の2つがあります。
これらの病気は、免疫の働きが乱れることで腸に炎症が生じると考えられていますが、なぜ免疫が過剰に反応してしまうのか、その原因はまだ明らかではありません。
どちらの病気も比較的若い方に発症しやすく、慢性的に経過するため継続した治療が必要です。
しかし、近年は治療薬の進歩により、症状がほとんど出ない「寛解」の状態を長期間保ちながら、普段どおりの生活を送ることも十分可能になっています。
潰瘍性大腸炎(中等症以上)とクローン病は、いずれも国の指定難病の対象であり、一定の条件を満たすことで医療費助成を受けることができます。
考えられる原因

前述のとおり、炎症性腸疾患の原因は、現在のところ完全には分かっていません。
しかし、食事、遺伝的な要因、腸内環境、ストレスなど、さまざまな因子が複雑に関わり合って発症すると考えられています。
本来は病原菌などの外敵を攻撃する免疫が、誤って自分の腸を刺激してしまうことが炎症のきっかけになるとされています。
遺伝的要因についても、ひとつの遺伝子の異常だけで発症するわけではありません。
免疫の働きや腸のバリア機能に関係する、多くの遺伝子の“多型”(体質の違いのようなもの)が組み合わさって影響していると考えられています。
これまでに、発症に関係する可能性のある遺伝子は100種類以上報告されています。
なお、こうした炎症性腸疾患に関わる遺伝子解析が始まった初期の時期には、当院院長も理化学研究所などで研究に携わっていました。
炎症性腸疾患の種類
炎症性腸疾患には、潰瘍性大腸炎とクローン病の2種類があります。ここでは両疾患の症状や治療法についてご説明いたします。
潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜(比較的浅い層)に炎症が起こり、びらん(ただれ)や潰瘍ができる病気です。炎症は多くの場合、直腸から始まり、口側(奥)へ向かって連続的に広がるという特徴があります。
原因が明確になっていない慢性の病気で、長期間にわたる治療が必要となることがあります。そのため、病状が中等度以上の場合には「指定難病」に定められ、医療費助成の対象となっています。
全国規模の疫学調査では、2023年時点の潰瘍性大腸炎の有病者数は約31万6,900人と推計されており、2015年の調査と比べて約1.4倍に増加しています。
また、男女差はほぼなく、発症年齢のピークは男性で20~24歳、女性で25~29歳にみられますが、小児から高齢者まで幅広い年代で発症します。
こんな症状はありませんか
比較的典型的な症状
- 血便・粘血便
- 1日に5~10回程度の下痢
- 便意をもよおすのに便が出ない
(しぶり腹)
重症な場合の症状
- 1日に20回以上の下痢
- 便より血液の量が多くなる
- 発熱・倦怠感
主な治療法
潰瘍性大腸炎の治療法は、内科的な薬物治療が中心となりますが、薬物治療でコントロールできない場合は外科的治療が必要になることがあります。しかし、最近では新薬が次々と登場し、ほとんどの症例が薬物治療でコントロールできるようになってきています。
内科的治療

潰瘍性大腸炎の治療の目的は、大腸の炎症をしずめて症状をおさえる「寛解導入」と、その後も症状をぶり返さないようにする「寛解維持」の2つです。
治療は、患者さんの症状の強さやこれまでの治療経過をみながら、必要に応じて段階的に治療を強化していく「Step up療法」が一般的です。
従来の“基本治療(conventional therapy)”だけでも約7割の方は良好にコントロールできていましたが、残りの約3割の方では治療に難渋することがしばしばありました。
しかし近年では、JAK阻害薬や生物学的製剤などの“新規治療(advanced therapy)”が大幅に増え、現在では多くの症例で寛解達成が可能な時代になっています。
■基本治療(conventional therapy)
従来から行われてきた治療ですが、適切に行うことで約70%の方で寛解維持が可能です。院長はこの基本治療を上手に使いこなすことが、専門医の腕の見せ所と考えています。
● 5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)
潰瘍性大腸炎治療の基本となる薬で、副作用が少ないため最初に使用されることが多い薬です。
一般的な薬は体内へ吸収されて全身を巡りますが、5-ASAは腸の表面で直接作用し、炎症を抑えることが特徴です。
効率よく病変部に薬を届けるために、
・内服薬 ・坐薬 ・注腸薬
など複数の剤型が用意されています。
なお、10%弱の方でアレルギー反応(発熱、腸炎悪化など)がみられることがあり、使用初期には注意が必要です。
● ステロイド
強力な抗炎症作用があり、寛解導入に非常に有効です。
一方で、長期間使用すると骨粗鬆症、感染症、糖代謝異常など多くの副作用が出現するため、2〜3か月以内での中止を前提に漸減していきます。
● チオプリン製剤
ステロイドでいったん症状が改善しても、減量すると再燃してしまう方に使用する“寛解維持”目的の薬です。
長期間使用可能ですが、約100人に1人の割合で
・高度の血球減少 ・脱毛 などの強い副作用
が起こることが知られています。
現在では、この副作用が起こりやすい遺伝子型が明らかになっているため、投与前に遺伝子検査を行うことで安全性が向上しています。遺伝子検査は保険診療で行うことが可能で、当院ではチオプリン製剤の投与前には必ず遺伝子検査を行います。
■新規治療(advanced therapy)
近年、潰瘍性大腸炎の治療は大きく進歩しており、従来の治療で十分な効果が得られない場合には、新規治療(advanced therapy)という選択肢があります。
新規治療薬は、大きく分けて
- 炎症を引き起こすサイトカインや、その下流の経路を抑える薬
- 炎症の原因となる白血球が腸の粘膜へ集まるのを抑える薬
の2種類に分類されます。
また、投与方法も、内服薬、点滴治療、皮下注射(医療機関で行うもの・ご自宅で行うもの)などさまざまで、病状、生活スタイル、ご希望を踏まえて治療法を選択します。
これらの治療薬は高額となることが多いため、使用にあたっては指定難病の申請を行い、医療費助成制度を利用することが一般的です。
当院では、内服薬(JAK阻害剤、インテグリン阻害剤、S1P受容体調整剤)およびご自宅で自己注射を行う皮下注射製剤(ヒュミラ®、シンポニー®、オンボー®、エンタイビオ®)による治療を行っています。
一方で、医療機関で投与する薬(レミケード®、ステラーラ®、スキリージ®)が必要と判断される場合には、適切な医療機関へご紹介しています。
-
サイトカインおよびその下流の経路を阻害する薬
- 抗TNFα抗体(レミケード®、ヒュミラ®、シンポニー®)
- 抗IL12/23抗体(ステラーラ®)
- 抗IL23抗体(スキリージ®、オンボー®)
- JAK阻害剤(リンヴォック®、ゼルヤンツ®、ジセレカ®)
-
白血球が腸の粘膜に遊走するのを阻害する薬
- インテグリン阻害剤(エンタイビオ®、カログラ®)
- S1P受容体調整剤(ゼポジア®、ベルスピティ®)
外科的治療
多くのケースでは内科的な治療で症状が改善しますが、次のような場合には外科手術(大腸全摘術)が検討されます。
- 内科治療が効果を示さない場合(特に重症例)
- 薬の副作用などで内科治療が継続できない場合
- 大量出血が起きた場合
- 大腸に穿孔(穴が開くこと)が生じた場合
- 大腸がん、またはその疑いがある場合
手術に際しては人工肛門を設置することもありますが、近年は小腸と肛門をつなぐ方法が主流となっています。
クローン病

クローン病は、潰瘍性大腸炎に比べてより深い潰瘍を形成する病気です。
口から肛門までのすべての消化管に病変をきたす可能性がありますが、主に小腸と大腸に病変が生じます。
深い潰瘍ができるため、炎症が長く続くと腸管にダメージが蓄積し、腸の通り道が狭くなる「狭窄」や、腸管同士、あるいは腸管と他の臓器がトンネル状につながってしまう「瘻孔」をきたすことがあります。このため、早期から適切な治療を行うことが重要です。
また、クローン病の病変は連続せず飛び飛びに存在するのが特徴で、病変と病変の間には正常な腸管がみられます。
このような特徴は、炎症が粘膜に限られ、連続して広がる潰瘍性大腸炎とは異なる点です。
潰瘍性大腸炎と同様に、原因が明確には分かっていない慢性の病気で、長期間にわたる治療が必要となることが多くあります。
クローン病も「指定難病」に定められており、医療費助成の対象となります。
こんな症状はありませんか
- 腹痛
- 下痢
- 体重減少
- 発熱
- 裂肛(れっこう)や痔瘻(じろう)などの肛門のトラブル
主な治療法
クローン病の治療も、潰瘍性大腸炎と同様に、内科的な薬物治療によって炎症を抑えることが基本となります。
ただし、「狭窄」や「瘻孔」といった腸管ダメージが高度になった場合には、手術が必要となることがあります。
以前は治療の選択肢が限られていたため、腸管ダメージが徐々に蓄積し、何度も手術で腸を切除せざるを得ない方も少なくありませんでした。
その結果、消化吸収に必要な腸の長さが十分に残らず、長期間にわたり点滴による栄養管理が必要となるケースもありました。
しかし近年では、さまざまな新薬の登場に加え、特殊な内視鏡を用いて狭窄部をバルーンで拡張する治療が可能となったことで、
以前に比べて頻回に手術が必要となる方は減少しています。
内科的治療

潰瘍性大腸炎では、病状に応じて徐々に治療を強化する「Step up療法」が一般的ですが、クローン病では腸管ダメージの蓄積を防ぐことが重要であるため、初期から新規治療(advanced therapy)を導入する「Top down療法」が行われることが多くなっています。
院長が九州大学病院に勤務していた当時も、約70%の患者さんがadvanced therapyを受けられていました。
使用される薬剤は潰瘍性大腸炎とほぼ共通していますが、クローン病では食事中の抗原を減らす目的で、食事の代わりに成分栄養剤を摂取する「栄養療法」が有効であることが特徴です。
栄養療法は継続が難しい側面もありますが、副作用がほとんどなく安全性が高く、一定の治療効果が期待できる方法です。当院では、内服薬(JAK阻害剤)およびご自宅で自己注射を行う皮下注射製剤(ヒュミラ®、オンボー®、エンタイビオ®)による治療を行っています。
一方で、医療機関で投与する薬(レミケード®、ステラーラ®、スキリージ®)が必要と判断される場合には、適切な医療機関へご紹介しています。
外科治療
クローン病では、「狭窄」や「瘻孔」といった腸管ダメージが高度になった場合に、手術が必要となることがあります。
手術の際には、将来の消化吸収への影響をできるだけ少なくするため、腸の切除範囲をなるべく短くするよう工夫して行われます。

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